グローバルマクロ 中年金融マン よーさんdoor

自己勘定ディーラーやファンドマネージャーとして20年以上生き残ってきたノウハウを開示。資産形成の探究やマーケット分析のブログ。

過去最大規模の金融緩和と大型財政政策の恩恵は株式に向かう

5月は過去最大規模の金融緩和下で、月前半ではそろそろ各国の財政政策の打ち尽くし感を警戒する動きがみられていましたが、欧州と日本が更なる増額か同規模の財政政策を打ち出したことから、内外株は前月の反発に続き上昇しました(4-7%程度)。ちなみに金利はほぼ横ばい(米10年+1bp、日20年+4.5bp)。

欧州はEU会議でユーロ圏における財政統合の第一歩をイメージさせる欧州復興基金案を増額して打ち出し、日本は第1次補正額と同規模の第2次補正額の追加財政政策を決定しました。

私は、定量アプローチ型のグローバル・マクロ戦略を追求しているのですが、やられは限定的なものの、財政政策により投資環境の不確実性が高まる局面に対する相場適応力は引き続き課題と考えています。

2020年に入り雇用とクレジット環境が悪化していることから、2019年以前とは異なり株価のV字回復はリスクリターンが悪いと分析し、3月の大幅下落は捉えられましたが、5月は3月安値の61.8%返しまでの自立的ショートカバー後、ここまで歯止めなく財政政策を拡大されると、1920年頃のドイツ市場のように何でもありの金融資産所有が有利となる相場付きになってきました。

マネー・クレジットがどう機能するかは、定量アプローチ者としてある程度コントロールしやすいですが、政治・地政学がどう動くかは分析・研究を続けているものの、モデルに反映するのは未だ課題ありのステータスであると非常に興味がある分野です。

ヘッジファンドのレイ・ダリオは、大きい債務負担があり金利ゼロの環境下からの債務負担の縮小と経済活動回復方法として以下の4つあると整理しています。

①人、ビジネス、政府が支出を縮小

②債務は不履行となり、企業は再編(銀行は貸出をリスケ→デフレへ)

③資産を富裕層からそれ以外に再配分(国家間や国内レベルで発生し社会不安へ)

中央銀行が新しい紙幣を印刷

今回は、新コロナ禍による経済活動急停止に対し、世界中で企業センチメントを下支えし景気の底割れを防ぐため、初期行動として「雇用の維持」「事業継続」を優先としたGDP増加に寄与しないバラマキを政府が行っています(モノを買い、分配)。これに対し、中央銀行は権限があるお金の印刷と金融資産の購入を行うことで協力している構図です(いわゆる④)。

この構図は、1933年と2008年に世界で見られた国の借金は増えますが、経済レベルの債務負担総額は減らせる手法であり、デフレとインフレ要素のバランスを政府・中央銀行が保てれば経済が安定化するチャレンジです。

経済レベルで経済活動急停止時に膨れ上がった大きい債務負担を縮小するためには、この債務負担の増加率より大きい所得増加率(ここではお金の印刷と追加財政政策)を継続させることが必要です。できなければ、経済的にショックの大きい①の実施となりますが、いつまでお金の印刷と追加財政政策の拡大を打ち出し続けられるかが、ファンダメンタルズと乖離を継続するための株価に対する手法なのではと考えています。

この皆が幸せなサイクルは、1933年と2008年には成功しました。その際は、賃金減が限定的であったことが共通点かなと考えています。失敗したのは1920年のドイツで、この時は空前の株価上昇・バブル後に、ハイパーインフレとなり株価急落し社会不安から世界大戦へと歴史は動きました③②。この時はフランスとベルギーがルール地方を占領し急激なインフレ発生がきっかけでしたが、地政学の緊張はハイパーインフレへのトリガーになる可能性を示唆しています。

今後は、世界的に経済活動再開がはじまり②企業の再編や③富裕層からの再分配など国家間レベル含め社会不安運動が歴史的に予想されます。そのようななかでも、④の中央銀行がお金を印刷し続けられれば、仕組みとして金融資産の保有は有利な展開が続くと思われます(企業の事業収入は不明ですが)。賃金の下方硬直性が確認された2008年等と異なる賃金減の動きによる急激な経済縮小によるデフレと、社会不安を背景とした地政学の緊張によるハイパーインフレ発生を何とか避けたいですね。